迢空の歌 – 山のうへに

作品

#209 山のうへに、かそけく人は住みにけり。道くだり来る心はなごめり

作品:山の上に
作品サイズ:半懐紙サイズ 約37×25 cm
仕立て額装

どんな歌?

詩歌:山のうへに、かそけく人は住みにけり。道くだり来る心はなごめり
詠者:釈迢空しゃくちょうくう(折口信夫)
歌集: 海やまのあひだ 
制作:大正14(1925)年以前 (同集刊行以前)
出典:釈迢空歌集 岩波書店

“天竜奥地 三河・信州・遠州国境にて詠める” の詞書に続く歌です。

山の上にひっそりと人は住んでいることだ。山道を下り来る私の心はなごんでいるよ

といったところでしょうか。

よしなしごと

料紙(かな書のための加工紙)の存在は、不思議なものです。

無地の紙に書いていた時、どれほど練り上げた構図であっても、どこか物足りなさを感じ、作品が完成したという実感は湧きませんでした。しかし、ふと、秋の空を背景にススキの穂がそよいでいる絵が描かれた料紙に筆を走らせた瞬間、まるで魔法のようにその空間が生き生きと立ち上がり、作品全体に息吹が吹き込まれたかのような感覚に包まれました。天高く澄み切った秋の空はまるで掛詞かけことばのよう(住む=澄む)、紙の中で静かに揺れ動くススキと呼応し、視覚的な美しさと共に、書かれた文字にまで季節の深みが染み込んでいくのを感じました。

無地の紙では伝わりきらなかった秋の高揚感や、爽やかな風が感じられる空の広がりが、料紙の図柄によって鮮明に表現され、書と背景が一体となって一つの調和した世界を形作っていくのです。

この経験を通じて、紙そのものが持つ力を改めて実感し、書道の中で料紙が果たす役割の大きさを強く感じました。料紙は単なる書くための表面ではなく、作品の一部であり、そこに描かれた模様が文字の持つ意味や感情を引き立て、相乗効果となって深みを与えてくれるのだと改めて気づかされました。

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