#226 春霞たつを見捨ててゆく鴈は花なき里に住みやならへる

作品サイズ: | 半紙サイズ 約33×24 cm |
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仕立て: | 額装 |
どんな歌?
しいか: | はるがすみ たつをみすてて ゆくかりは はななきさとに すみやならへる |
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詩歌: | 春霞たつを見捨ててゆく鴈は花なき里に住みやならへる |
詠者: | 伊勢 |
歌集: | 古今和歌集 |
制作: | 8~9世紀 |
出典: | 校註國歌大系3 |
“歸る鴈をよめる” の詞書に続く歌です。
春霞が立つのを見捨てて北へと帰る鴈たちは、花がない里に住み慣れているのだろうか、せっかく春が来て花が咲くというのに。
といったところでしょうか。春霞が立ちのぼる季節、それを背に北へと帰っていく雁。その姿に、咲く花のない寂しい里へと向かう覚悟や、別れの切なさを感じ取れる一首です。
よしなしごと
この歌を書くのは2回目です。前作では、粘葉本和漢朗詠集のような書風と寸松庵色紙のような構図で古典を意識しました。
今回は雁の飛翔をイメージし、縦長の構図を採用しました。文字の流れが空へと昇っていくような、あるいは空高く舞い上がる雁の姿と重なるような、そんな動きを意識しています。
また、あえて無彩色の料紙を選びました。春霞の柔らかな光や、遠く飛び去る雁の静かな影を、筆致の濃淡や余白によって表現したいと思いました。色がないからこそ、墨色がかえって豊かな表情を生み出してくれる――そんな料紙との対話も、この作品の楽しみのひとつです。
季節の移ろいとともに、遠くを見つめるような静かな心を感じていただければ幸いです。