素性法師の歌 – 惜しめども

作品

#265 惜しめどもとまらぬ春もあるものを言わぬにきたる夏衣かな

作品サイズ:半懐紙サイズ 約37×25 cm
仕立て額装

どんな歌?

しいか:をしめども とまらぬはるも あるものを いわぬにきたる なつごろもかな
詩歌:惜しめどもとまらぬ春もあるものを言わぬにきたる夏衣かな
詠者:素性法師
歌集: 新古今和歌集 176
制作:913年以前 (古今和歌集成立以前)
出典:新 日本古典文学大系11 岩波書店
どんなに惜しんで止めようとしても留まらない春なのに、来てほしいと言わないうちから来てしまう夏だよ

といったところでしょうか。

「きたる」に込められた二つの意味

この歌の面白さは、「きたる」に掛詞が用いられていることです。

「夏が来た」という意味の「来(き)たる」と、「夏衣を着(き)たる」という意味の「着(き)たる」。一つの言葉に二つの意味を重ねることで、春が去り夏が訪れたことへの嘆きと、夏衣に着替えなければならない現実とを同時に表現しています。

「惜しめどもとまらぬ春」と詠みながら、最後は「夏衣かな」とため息のように結ぶ展開も巧みです。季節の移ろいは止められず、頼みもしない夏は容赦なくやってくる。それを受け入れなければならない──そんな諦めと苦笑いが、この一首には漂っています。

平安京が置かれた京都の夏は、盆地特有の蒸し暑さで知られています。現代ほどの猛暑ではないとはいえ、風通しのよい寝殿造でも暑さを避けることは難しく、貴族たちにとって夏は決して過ごしやすい季節ではありませんでした。

しかも、宮廷では季節に応じた装束や色目が重んじられます。涼しげな薄物とはいえ、重ね着は必須です。だからこそ「夏衣」は単なる衣服ではなく、「もう夏になってしまった」という実感を伴う言葉なのでしょう。

掛詞という知的な技巧の中に、季節への名残惜しさと、暑さへの本音をさりげなく忍ばせる──素性法師らしい、軽妙で洗練された一首といえるでしょう。

作品仕様・額装について

  • 素材:かな料紙に、磨り墨による墨書
    ・・・ 料紙の繊細な表情と墨の深い階調が、静かな奥行きを生み出します。
  • 額装:作品ごとに最適な仕立てを施し、高品質なアクリル額にて額装いたします。
    ・・・ 空間との調和を大切に、一点ごとに設えます。書の美しさが暮らしに自然に溶け込み、日々の景色を整えます。
空間イメージ
(本画像はGoogleの生成ツールを用いて制作しています。)

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