#232 春すぎて夏きにけらし白妙のころもほすてふあまのかぐ山

作品サイズ: | 半紙サイズ 約33×24 cm |
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仕立て: | 額装 |
どんな歌?
しいか: | はるすぎて なつきにけらし しろたへの ころもほすてふ あまのかぐやま |
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詩歌: | 春すぎて夏きにけらし白妙のころもほすてふあまのかぐ山 |
詠者: | 持統天皇 |
歌集: | 新古今和歌集 |
制作: | 703年以前 (没年以前) |
出典: | 新 日本古典文学大系11 岩波書店 |
春が過ぎて夏が来たらしい。夏になると白妙の衣を干すといわれる天の香具山に真っ白な衣が干されているよ
といったところでしょうか。
持統天皇が表現したかったのは?
小倉百人一首の中でももっとも有名ともいえるこの和歌、もともとは万葉集巻一・28番歌です。黄色でマークしたところが百人一首と違います。
藤原宮御宇天皇代 高天原廣野順天皇 元年丁亥十一年讓位軽太子 尊号太上天皇
天皇御製歌春過而 夏来良之 白妙之 衣乾有 天之香来山
はるすぎて なつきたるらし しろたへの ころもほしたり あまのかぐやま(卷一・二八)
実はこの歌、特異な歌であり謎が多く、古来よりさまざまな研究がなされてきたようです。
「春過ぎて…」の和歌の謎
- 香具山の白妙の衣は見立てか実景か?
- そのことがなぜ夏の到来を意味するのか?
- 「らし」「乾」の用法が万葉集のほかの歌と異なる
- 万葉集中に「元年丁亥」のように即位年を記す例がほかにない
・・・
研究の結果からみえてくる、持統天皇の真意?!
- この歌は単なる季節の歌ではなく、皇統の正統性を象徴的に表現した詩歌ではないか。
- とくに、香具山で干される「白妙の衣」という表現に宗教儀礼的な意味が込められており、それが「夏の到来=新たな治世」を暗示しているようだ。
- よって、「春過ぎて夏来にけらし」という句は、持統から文武への皇統の継承と正当化を示す高度な政治的・象徴的表現であると解釈できるのではないか。
歌の裏の意味はともかく
持統天皇は天智天皇の娘であり、天武天皇の皇后です。自らの子である草壁皇子に皇位を継承させるため、大津皇子を排除したとされる一方、孫の文武天皇の正統性を支えるべく『古事記』の内容に関して指示したともいわれています。
そうした逸話から、時に野心的で策謀に長けた人物という印象を持たれることもありますが、同時に、初めて火葬された天皇となるなど先進的な一面もあり、時代を切り拓く存在だったことがうかがえます。多面的で非常に魅力的な女性です。
そんな彼女が、吉野行幸の折などにふと目にした光景 ― 夏の青空と香具山の深緑を背景に干される白妙の衣に心を奪われ、そのまま歌にしたと考えるのもまた素敵です。
本作品はそのままの歌の意味にしたがい、衣が風にはためいている情景をイメージして、ひらひらとした行立てで書いてみました。