千代女の句 – 朝顔や | Gallery μ 【かな書道】

#197 朝顔やつるべ取られてもらひ水

作品サイズ：	はがきサイズ約15×10 cm
仕立て：	額装

井戸に水を汲みに行くと、朝顔がつるべに巻き付いて咲いていました。そんな朝顔を傷つけるのは忍びないので、他所にお水をもらいに行きました、といったところでしょうか。

一般的には「朝顔に・・・」で知られている、加賀千代女の俳句です。

実はこの句を詠んだ当初は「朝顔に」だったのですが、彼女が35歳の時に「朝顔や」に改めたのだそうです。

それでは、「に」と「や」では何が違うのでしょうか？

端的にいうと、「に」は説明的、「や」は朝顔に対する感動が込められている、といったところでしょうか。詳しくは出典をご参照ください。

作者が後年になって「こちらの方が良い」と推敲したことに敬意を表して、本作品は「や」で書きました。

今回の作品は誰もが読んでもらえるように、「調和体」とか「漢字かな交じり」といわれる形式で書きました。「かな書」は通常、古典に則って変体仮名を使い、濁点は書きません。一方、「調和体」では変体仮名を使わず、かつ濁点などを書くため、現代の日本の方も読める書です。

変体仮名（へんたいがな）
現代の日本では習わなくなってしまった、ひらがなの総称です。

変体仮名を使うと、同じ音でも多様な字形を持った字を配置できるため、変化に富んだ作品を作り出すことが容易です。むしろこのように文字のパズルで景色を楽しむのが「かな書」です。

一方、変体仮名を使えない制約がある調和体では、変化を持たせるためにさまざまな工夫が必要です。

さて、読みやすくを念頭に書いた今回の作品ですが、実際のところ、普段かな作品を見慣れている家族にさえ「読めない」と言われてしまいました。活字に馴れてしまった現代の日本の方々に、読める書を提供することの難しさを痛感しました。